SoB支援SS一話。

 
 STORM of BULLET ―Another Play―0
 
 
 
 *注意*
 当作品は大人向けゲーム STORM of BULLET(18禁)の二次創作です。
 大人向け物語の表現として性表現と暴力表現があります。
 当作品内では全年齢に向けて書いておりますので描写こそありませんが、その裏で行為が行われておりますことをご承知ください。
 ただし原作においてもエロは追求されておりませんので、当作品もそれに順じております。
 お気に召さない方はプラウザバックを推奨いたします。
 ご理解の程を宜しくお願いいたします。
 この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、名称とは一切関係ありません。
 
 
〜此処ではない何処か〜
 
 暗い場所だった。
 上もなく、下もなく、右もなく、左もなく、ただ只管に暗い場所だった。
 貴方は何故このようなところにいるのか理解できない。
 日が周ってからようやく会社を出た貴方は、ふらつく足で家に帰り、いつになく大量の仕事を任せた上司と明日にもまた襲い来るであろう激務に対し、好き放題文句を言った後、飲みなれない酒を浴びるように飲んで泥酔したはずだ。
 だというのに、目を覚ませばどうしてかここにいる。
 黒く暗い闇の中。一人放り出された貴方はこれからどうすればいいのか分からなかった。
 貴方が理解できないのは当然である。貴方は世界を救った勇者でもなければ、超常の力を持っているわけでもない、何処にでもいる一般人だ。隣のデスクで自分の倍はある仕事をこなしていた田中のほうが、よほど勇者に近いだろう。
 良い意味でも悪い意味でも極々平均的な日本人。流されやすく、情を移しやすい。無意味に楽観的だが、こうと決めたら思考が凝り固まってしまうある意味頑固者。それが貴方の正体というほどもない本質であり、性質だった。
 長々と語ったが、ようするに貴方は無音の闇の中で長時間正気を保てる強靱な精神構造を有していない。今後もそうかは別として、少なくとも今はそうだった。すでに全身から脂汗が止まらなくなり始めている貴方は、しかしそれでも耐えたほうだろう。
 貴方は耐えきれず、意味もなく叫んた。
 喉よ枯れろと言わんばかりの絶叫に、しかしその行為は実を結ばない。
 声は木霊することもなく、闇に吸いこまれ、そして消えた。 
 どこまで続くとも知れない夢幻の闇の中にいることをようやく悟った貴方は、身を抱くようにして震える体を押さえつけた。
 己の体を見ることすら覚束ない闇の中で、このまま朽ち果てるのか。
 埒のない妄想が全身を支配しようとしたその時だった。

『……ん?
 また来たのか。
 ……さて。めんどーだが仕事をするか』

 どこかから声が聞こえたのだ。
 弾けるようにして首を振りまわし、貴方は声の出処を探す。しかし、周囲は無音の闇一色に染まっている。結局声が何処から届いたのかを知ることは出来なかった。
 だが、貴方はそれでもいいと結論した。たかだか数分程度のこととはいえ、ようやく聞こえた自分以外の声だ。今はただ他人の声が聞きたかった。
 闇に響いた声は男のようだった。
 しわがれた、中年の声。
 仕事に疲れ、摩耗しきった心を惰性で動かしながら、極偶に起きる娯楽を潤滑油になんとか回している。けれど声の芯に確かな力を感じられる。
 貴方は男の外見を夢想する。日に焼けた肌。短く刈りあげた頭。年を重ねても筋肉でなお盛り上がる腕。黒いサングラスをかけ、しかしその表情は精彩に欠けている。かつて夢を追いかけ、しかし夢破れた男と一瞬でバックストーリーまで作り上げた貴方は中々に想像力豊かであった。
 姿は見えないが、さぞ安酒と安煙草が似合うのであろう、と貴方はそんなことを思っていた。人がいることを知って、どこか余裕が出てきたのだろう。
 貴方は問う。あなたは一体何者なのかと。

『俺か? 俺はしがないただの男だ。
 お前の様な一般人に対して、このゲーム、じゃなかったな、小説――世界と言い換えてもいいか、それの大まかな概要を説明している。
 そう、あんたみたいな迷える子羊にちょっとしたアドバイスをしてあげるのが、俺の仕事だ』

 とりあえず聞きたくないなら耳でも塞いでな、と笑う彼に、貴方はとんでもないと首を振った。
 先も言ったが、貴方は会話に飢えていた。会話が途切れることを恐れていたと言い換えてもいい。何故なら、この状況において男の声は、唯一の話相手であると同時に、何故闇の中に己がいるのかを尋ねられる無二の情報源でもあったからだ。得体の知れない(貴方の中では男の家族構成まで綿密に作り上げられているが)声に思わず敬語を使っていることがその表れだろう。
 しかし、貴方の思いもむなしく、しばしの間無言の時が過ぎる。
 男が何も言わないので、もしや自分は何か失言でもしたのだろうかと慌てようとしたところで、深いため息とともに再度男の声が響いた。

『どうやら俺の話を聞きたいようだな。
 やれやれ……本当の初心者ということか』

 男の声は何処か憐憫が込められている気がした。
 初対面――対面しているわけではないが――の相手に哀れまれたことに眉を顰めるが、それを察したのか男は独り言だ、気にするなといったん会話を打ち切った。
 どうやら触れてほしくないことだったらしい。

『まずこの世界は男性かつ大人向けの世界観だ。
 18歳未満なお子様は絶対にプレイ禁止なんだが……その点アンタは問題なさそうだ』

 何処かから値踏みされるような視線を感じる。
 世界観がどうのはよく分からないが、貴方は自分は大人だと胸を張って答えた。
 まだまだ社会人になって間もないひよっ子だが、酒も飲めるし車も乗れる。仕事だってこなしてきたばかりだ。事に至ったことはないが、女だって抱くことができるだろう。
 それを了承と取ったのか、男は声を張り上げた。

『ようこそ大人な野郎共!
 生きること(RPG)は好きだが、退屈(お子様向けRPG)には飽きたというやつは歓迎するぜ』

 そして男は言った。
 それは何故自分がここにいるのかの答えであり、この後貴方を襲う非情な現実の宣告だった。

『あんたにはこれから異世界に行ってもらう。あんたはそこでひたすらに生き延びてもらうことになる』



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『ちなみにマニュアルなんてないぜ。
 理由はめんどくさいから。ってのは嘘で「それもまたコンセプトの一つ」だからだ』
『でも、大丈夫だよな。
 きっと皆、数多のゲーム世界を救った伝説の勇者様達だろうからな』
『さっきも言ったが、この小説は「もしも荒廃した世界に『貴方』が飛ばされたら」というものだ』
『だからと言って「世界を救え」とか「元の世界に帰る方法を探せ」なんてことを言うつもりはない』
『ただこの荒廃した世界で生き続ければいい。
 そして、逃げ出したい奴はさっさとプラウザバックでもしてリタイアしてくれ。
 もっとも『あんた』はともかくお前にそんな権利はないがな!』
『この世界では、お前のような一般人が生き残れるほど甘くはないからな。本当に同情するぜ……』

 男は貴方の反応を待たずに一方的に捲し立てる。
 声の調子が高いのは、興奮しているからか、嫌なことを早く終わらせたいがためか。
 トーンを変えてさも哀れみを込めたような声で憐れまれたとき、ようやく貴方の思考は形だけだが再起動を果たした。
 理由の分からない憐みを押し付けられて、何も感じないほど貴方は鈍感でも間抜けでもない。
 貴方は男の話をひとまず真実であると判断した。一方的な話に対する怒りも困惑も棚上げして理解に努める。
 もしこれが夢、ないし自分の妄想であるならばいい。いや、その場合は自分が痛い妄想狂であるという事実になるのだが、ひとまずいいとする。鉄格子のついた病院に入院することになっても、命の危険はないからだ。
 だが、これが事実である場合、話から判断するに命の危機と直結する類の内容だ。
 適当に聞き流して自分が死んだら、それこそ間抜けであった。
 しかし、それはそれとして同情が癇に障るのは事実だった。同情するより金をくれとはよく言ったものだ。

『怒るなよ。お前が頭に来るのは分かるが、俺だってこんなのはもううんざりなんだ。
 一体、もう何人『あっち』に送り込まされたと思う? その度に全員町に辿り着くこともできずに野垂れ死にだ。自分こそは特別だ、とかオリぬしきたこれだとか、訳の分からんことをほざいちゃ死んでいく阿呆を何人も見てきたんだ。お前もそうなるかと思うと哀れみも沸くってもんだよ』

 しかし、貴方が怒りの声を上げようとした途端、見越したかのように男は疲れ切ってた声を出した。思わず貴方は声を収めてしまう。
 言っている意味も分からないのに、頭に来ていた貴方が哀れんでしまう程度には、それは哀愁を帯びていた。
 自分が愚痴を溢したことに気付いたのか、男はおおげさに咳払いをすると、トーンをあげて会話を締めにかかる。

『さて、こんな生意気で上目線な適当解説はこの先、二度とないので安心してほしい。なんせ俺は世界と世界の狭間に迷い込んだ者としか会話ができないからな。目を覚ましたらこの会話だって覚えてるかどうか怪しいもんだ。
 もう二度とお前に会うことはないさ』 

 言葉とともに、闇が薄くなっていく。
 世界が急激な勢いで光を取り戻そうとしていた。
 貴方は周囲に首を巡らすが、どうなるものでもない。徐々にその体が光へ追い立てられて行く。

『それじゃ最後に一言』

 男は小さく咳をすると、もったいぶるように貴方へ語りかけた。
 薄く掻き消されていった闇の残りが集まり、輪郭が形作られ、曖昧な人型が――おそらくは男であろう影がぼうっと生み出されていく。それは最後まで姿を見せなかった男の、おそらく貴方に対する餞のつもりなのだろう。

『……ある意味「死」こそが次の世界から逃げ出す唯一の方法かもしれない。
 しかしそれを決めるのはお前自身だ』

 大仰に手のひらを広げ、男は言う。
 祝福であり、呪詛でもある身勝手な歓迎の言葉を持って、刹那の会合は幕を下ろす。

『「STORM of BULLET」の世界へようこそ。
 死んで逃げ出すことも、がむしゃらに生きることもそれは全てお前の自由だ』

 影が消える。
 闇が消える。
 視界一杯に広がった光の奔流に呑み込まれ、貴方の意識は押し流された。
 
 ……その刹那。微かに届いた音を最後にして。

『ただ、俺としちゃお前に生きていて欲しい。お前が死んだらまたその辺の奴を送り込まにゃならん。それにこっちの勝手な都合で巻き込んだ負い目もあるしな。
 ……だからまあ、こいつは秘密のサーヴィスだ。精々生き延びてくれ』





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 死にたくなければ無様に足掻け。
 守りたい女がいるなら銃を取れ。
 殺したい奴がいるなら戦車を駆れ。
 ここは化物共が闊歩する地獄の世界。
 ゆえに力こそ正義。
 力を追い求めれば、富と名声と女は全て後からついてくる。
 死にたくなければ手に入れろ。
 誰にも屈しない誇り高き力を!!――原作サイト様より抜粋。

「当作品はRPGツクールVXで作られたRPG(ロールプレイングゲーム)『STORM of BULLET』の二次創作であり、支援SSです。
 本来ならば「役を演じるゲーム」の名の通り、皆様本人の名前で楽しんでいただきたいのですが、いかんせん当作品は小説であり、主人公の名前は固定されてしまっています。
 STORM of BULLETは本名にするからこそ面白さが増す物語である、と原作者様の言葉でも私自身の考えであり、作者は当作品はそれだけでSTORM of BULLETの魅力を伝えきれないと思えてしまいます。やはり本名ないしそれに近い名前のほうが、よりリアルに主人公の境遇を体感することが出来るでしょう。
 ですが、実名でないプレイもまた、そのプレイでしか楽しめない面白さがあることもまた事実。
 拙作ではありますが、長い目でお付き合い頂けますと幸いです」